結論から書きます。
海外に長期滞在する際の日本の役所手続き、3か月までの滞在ならば何もしなくてOKです。
4~9か月の渡航は年金をカラ期間にして、マイナンバーカードを作っておきます。
10~11か月までの留学やワーホリはそれにプラスして、海外転出届を出すべきかを考えます。
そして12か月以上日本を離れる場合は海外転出届を提出 ⇒ 健康保険を止めておきます。また住民税を節税できるポイントを把握しておくと良いでしょう。
3か月まで | 4~9か月 | 10~11か月 | 12か月以上 | |
---|---|---|---|---|
転出届 | – | – | △ | 提出 |
健康保険 | – | – | △ | 停止 |
住民税 | – | – | △ | 節税狙い |
年金 | – | カラ期間 | カラ期間 | カラ期間 |
マイナンバー | – | カード申請 | カード申請 | カード申請 |
表の△は「手続きをしなくても良いが、しておく方が多いポイント」です。
税金、年金、健康保険は収入や家族構成が絡みますので例外もありますが、基本的にはこの表をご参考ください。
それでは以下、一つ一つ状況を確認していきましょう。
長期間、海外に出る前に考える必要のある役所手続き
渡航前に考えるべき役所手続きは以下の5つです。
- 住民票(海外転出届)
- 健康保険
- 住民税
- 年金
- マイナンバー
そしてこれらは全て、市区町村の役所で手続きします。
その1:長期の海外出発前の住民票の手続き(海外転出届の提出)
原則として1年以上の海外渡航を予定している場合、海外転出届を提出する必要があります。
またこれを一般的に「住民票を抜く」と言います。
そして逆に1年未満の海外渡航は「日本に在住しながらの海外旅行」という扱いになり、住民票を抜く必要はありません。
ワーキングホリデーの海外渡航期間は任意です
ニュージーランドのワーキングホリデーは現地で3か月の延長ができますし、またワーキングホリデー後に他の国を周遊する可能性もありますので、ワーホリであれば「1年を超える渡航予定」として申告できます。
そしてまた逆に、1年未満の渡航として申告することもできます。
つまりワーキングホリデーでの海外渡航期間は渡航者のお考え / 予定次第であり、結果として住民票を抜くかどうかも申請者のお考え次第です。
出発前は15か月くらい日本を離れる予定で住民票を抜いた ⇒ 色々とあって実際には3か月後に日本に戻ったとしても、特に問題ありません。申請時の計画と実際が変わるというの、海外渡航ではよくあることです。
住民票を抜くことで得られるメリット
住民票を抜くことで健康保険の支払いが自動的に止まりますし、出発日によっては住民税の節税になります。
ですから10~11か月の渡航になる可能性が高くても12か月を超える滞在になる可能性が少しでもあるのなら、住民票を抜いておく方が多いです。
またそうすることで「現地で就労ビザを取って働くことになった」、「ニュージーランド人と結婚することになった」、「ニュージーランドのあとオーストラリアのワーホリに行くことになった」などで12か月を超える海外渡航になった際にも、日本側の手続きをする必要がなくなります。
先が見通せない長期渡航にとって、これも大きなメリットです。
住民票を抜いたのに12か月未満で日本に帰国した場合は、市区町村役場にその届け出をするだけです。それで本来支払うべき健康保険の保険料なり住民税の請求書が届もきますので、それを支払って終わりです。当初の予定が変わっただけのことですので、罰則も罰金もありません。
繰り返しになりますが、ニュージーランドのワーキングホリデーであれば海外渡航の「予定期間」は15か月で問題ありません。
そして予定はあくまで予定ですので、現地滞在が12か月を超える可能性が少しでもあるのなら住民票を抜く方が手続きとして合理的です。
海外転出届の手続き方法(住民票の抜き方)
- 申請先 / 相談窓口
各市区町村の役所で手続きします。 - 海外転出届の提出時期
出発の10~14日前が目安、遅くとも出発前日までに申請します。 - 届出人(申請者)
渡航者本人、もしくは世帯主と指定されています。 - 海外転出届に必要な書類
原則としては本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)と印鑑のみです。ただし市区町村によってビザの提示を求めるなどもありますので、事前に担当課までお問い合わせ下さい。
また海外転出届が受理されますと、転出証明書が発行されます。
この転出証明書は日本帰国後の転入手続きに必要になりますので、ご実家などで大切に保管しておいて下さい。
その2:長期の海外渡航前の国民健康保険の手続き
それでは次に健康保険についてです。
現在会社に勤めている方は社会保険に加入されていますが、退職すると自動的に国民健康保険に加入します。
ですから海外に出発する際には社会保険ではなく、国民健康保険の継続と脱退について考えることになります。
そして海外転出届を出して住民票を抜くと、国民健康保険は自動的に脱退します(資格喪失状態)。
国民健康保険を脱退しますと保険料の納付義務がなくなり、同時に保険給付(保険金)を受け取れなくなります。
国民健康保険から脱退することのメリットとデメリット
そもそも国民健康保険は、日本国内での医療に主眼をあてています。
ですから海外での治療費の補償は「日本の国民健康保険の対象となる治療をした場合、医療費の7割を保険金として支払う」決まりで、且つ、その保険金は実際に掛かった治療費ではなく「日本で治療した場合の標準額」を元に計算されます。
「あれ?でも海外の治療って高額なんじゃ・・・ (‘-‘*)」
その通りです。ですから治療費が高額だった場合、「実際にかかった費用の半額しか保険金がおりない」といったことも起こりえます。
また日本では未認可の薬を使った場合などは日本の健康保険の対象とならない = つまり保険金が下りない治療もあります。
この点、以下の入間市の公式ページなどで詳細を確認できます。
ちなみにこのルールは国民健康保険だけでなく、協会けんぽなどの社会保険でも同様です。
そしてまた国民健康保険に加入するためには、国民年金と住民税も支払う必要があります。
以上をまとめますと「あれこれと支払っても3割負担」、「その3割も日本の標準額での計算」、「カバーされない治療もある」という状況です。
結論として海外滞在中は国民健康保険に加入するメリットがほぼありません。
国民健康保険を停止した後の保険について
渡航中は海外旅行保険や現地の保険に加入します。
これらは海外に特化していますので国民健康保険や社会保険に比べて補償も手厚く、出費もおさえられます。
ちなみにニュージーランドへの渡航の場合、客観的にベストな保険は「クレジットカード付帯保険で携行品をカバー & 医療費は現地の格安保険で無制限の補償をつける」です。
この点は以下にまとめましたので、そちらをご確認ください。
クレカ保険と現地保険の組み合わせ、たとえばワーホリの1年なら672ドル=4.7~5.4万円(1NZドル=70~80円で計算)です。それで最初の3か月は荷物の補償あり + 12か月の滞在期間中は医療費が無制限に補償されます。完璧です。
海外生活、他の何を節約したとしても保険だけはしっかりと加入しておきましょう。
その3:1年以上の海外渡航時に住民税の節税を狙う
住民税は01月01日の時点で日本に住民登録されているかどうかで全てが決まります。
例えば2023年12月31日に日本を出発する場合はその日付で日本国内の現住所が抹消されますので、2024年度 = 「2024年06月01日からの1年間」は住民税が掛かりません。
しかし翌日の2024年01月01日に日本を出発した場合は2024年度 = 「2024年06月01日からの1年間」も住民税が発生します。
住民税の課税年度は毎年06月01日に始まり、翌年05月末に終わります。
ですから年末年始の出発で1年を超える海外滞在をお考えの場合、多少無理をしてでも年内に出発 ⇒ それだけで十万円単位の節税に繋がります。
01月01日に住民票を抜いていても、05月末までは支払いがあります
住民税の課税年度は05月末締めですので、例えば12月上旬に日本を出発したとしても05月分までの支払いをしなければなりません。
つまり節税の効果がでるのは翌年の06月から、それを踏まえて出発前に翌年05月までの未払い分を清算しておくのが一般的です。
また具体的な清算 / 支払い方法については各市区町村の納税課か税務課にご相談ください。
1年を超える海外渡航でないと条件をクリアしません
住民税免除の条件は「01月01日に日本国内に住民票が無いこと」と「1年以上の海外滞在」の2つです。
ですからもしも1年未満で日本に戻ってきた場合、たとえ01月01日に住民票を抜いていたとしても住民税の支払い義務が復活します。
その場合は日本帰国後に当該市区町村から未納分の納税通知が届きます。
日本帰国後、新たに住民票登録する際にパスポートの出国日と入国日のチェックがあります。それに備えて日本の空港では必ず出入国スタンプを押して貰っておきましょう。
結論として、住民税を節税するためには・・・
「12月31日までに日本を出発し、そのまま海外に1年と1日以上滞在する」ことで、翌年06月から始まる1年間の住民税の節税に繋がります。
住民税の目安
住民税の金額はご家族の状況や控除額によって変わりますが、概算としては「年収200万円ならば6.5万円」、「年収300万円ならば12.0万円」、「年収400万円ならば18.0万円」、「年収500万円ならば24.5万円」といった所です。
年収200万円 | 年収300万円 | 年収400万円 | 年収500万円 | |
---|---|---|---|---|
住民税 | 6.5万円 | 12.0万円 | 18.0万円 | 24.5万円 |
ちなみに年収はその年の01月01日から12月31日までの収入で計算され、給与所得者の場合は翌年06月から分割で給料引き落としされるのが一般的です。
ですから毎年500万円稼ぐ方が01~6月までに300万円を稼いで日本を出発した場合、節税に繋がるのは12.0万円程度です。
そしてこの12回の天引きが完了する前に離職した場合は「市区町村から納税通知書が届く」 or 「退職時に会社が一括で徴収する」の2択になります。
実際の税額は給料明細や源泉徴収票をご確認ください。住民税額は家族構成や状況によって上下に幅があります。
ワーホリの住民税を免除しない市区町村もあります
ワーキングホリデーを利用して1年を超える渡航であれば住民税を徴収しない市区町村が多いのですが、ワーキングホリデーを単純な旅行とみなし、1年以上の離脱をした場合でも収税する市区町村があります。
つまり「ワーホリは【旅行】だから海外滞在ではない」=「日本に現住所がある」=「住民税を徴収」という考え方です。
こういった市区町村では住民票も抜かせて貰えませんし、住民税や年金、国民健康保険の支払いも求められます。例えば大阪府泉佐野市や滋賀県大津市などがこれに該当します。
しかし例えば「ワーキングホリデーで出発するが、現地や他国でワークビザを取得して2-3年は日本に戻らない人が多数いる」状況を租税法が旅行と見なすのかどうか、判断は難しいところです。
また仮に日本の租税法的にワーキングホリデーが旅行だったとして、国家間の課税範囲の取り決めの根拠となる「生活の本拠」は必ずしも「住民登録地」と同一ではありません。
この点は日・ニュージーランド租税条約の Tax Resident 判定に付随する取り決めに照らし合わせ、「生活の本拠はどこなのか」について考慮されていなければなりません。
・・・が、市区町村も内部規定を簡単には変えられませんし、この点で役所の職員さんと揉めるのは良い手ではないでしょう。
それを踏まえて「ワーホリだと住民票が抜けない市区町村」にお住いの場合は、渡航までにご実家や親せき宅に引っ越しても良いかもしれません。
長期海外渡航時の納税管理人の選任
これは「海外滞在中に不動産や株取引などによる継続的な所得がある方」や、「確定申告が必要なのに出発までに申告できない方」などが税務手続きの代理人を指定しておく制度です。
納税管理人はご家族を指定するのが一般的ですが、税理士などにも頼めます。
また「給与所得者が中途退職をして且つ、年末調整を受けていない場合」は過払い分が戻って来る還付申告の対象となります。
具体的には確定申告することで還付申告を申請 ⇒ 大抵のケースで過払い分の税金が戻ってきますので、これは忘れないようにしておきましょう。
還付申告は確定申告の申告期間とは関係なく、5年の猶予があります。ですから時間がない時は1~2年後に日本帰国した際に申告しても問題ありません。
ちなみに確定申告や還付申告で分からない点はお住いの地域の税務署で詳しく説明して貰えます。
還付申告の手続きは半日もあれば終わりますので、控除に関する点を含め、積極的に質問してみましょう。
その4:長期海外渡航時の国民年金の手続き
海外滞在中の国民年金は掛け金を払い続けることもできますし、海外滞在中を「カラ期間」にすることもできます。
ちなみにこのカラ期間とは「年金加入期間としてカウントされますが、将来の補償額がその分だけ減算される期間」のことです。
例えば65歳までに5年しか掛け金を支払っていない場合は10年の必要加入期間に足りませんので65歳になっても年金を受け取れません。
しかし、もしもこの方に5年のカラ期間がある場合はカラ期間も加入期間としてカウントされ、「10年加入したケース」から見て5/10の割合で減額された年金を受け取れます。
とりあえず年金につきましては個々の状況・お考えがある部分ですのでコメントが難しい所ですが、まとまった期間渡航するならカラ期間にしておいても良さそうです。
ちなみに現在の国民年金の保険料(掛け金)は毎月16610円ですから、カラ期間にすることで約20万円/年の出費をおさえられます。
カラ期間の申請に際し、ビザの種類は問われません。学生ビザでも観光ビザでもワーキングホリデービザでも就労ビザでも、カラ期間を選択できます。
カラ期間のメリットとデメリット
カラ期間にすることで掛け金を払わないで済むのは大きなメリットです。
しかし将来67歳なり70歳になった時に受け取れる年金がその割合分だけ減りますので、長期的な収支で見ればトントンと言えるのかもしれません。
掛け金の納付免除があるかもしれません
前年度の所得や扶養家族、社会保険料控除額などによって、国民年金の毎月の掛け金は25~100%まで免除されるケースがあります。
これらが認められた場合は年金加入期間だけではなく年金額のアップもありますので、例えば全額免除になるのならば、カラ期間にするよりも有利です。
ただし年金保険料の免除には住民登録が必須です。つまり住民票を抜くのなら免除は認められません。
この点も気になる方は、お住まいの地域の年金事務所までお問い合わせ下さい。
その5:海外転出時のマイナンバーカードの取り扱い
市区町村役場に海外転出届を提出するとマイナンバーカードは失効します。
しかし失効したカードはそのまま返却され、カードは本人が保持・管理するよう伝えられます。
つまりカードは電子的に失効手続きを施された後、すぐに返されます。
この点の詳細は内閣府サイトの質問コーナー、Q3-19で説明されています。
ちなみに海外でマイナンバーカードを紛失してしまいますと大変ですので、カードは日本のご実家などに保管するのがベストです。
その上でスマホでカードを撮影 & 画像をオンライン・ストレージに保管 or メールに添付して自分に出しておくと安心です。
マイナンバー、割と現地で使います
現地で働く場合や銀行口座を開設する際に日本のマイナンバーが必要になります。
実際にワーキングホリデーはマイナンバーが無いと何もできないレベル、運用としては番号が分かっていれば良いのですが、念の為にカードを作っておくのをおすすめします。
カードがあるとWiseの登録がラクですし、日本に帰国した際の役所手続きも簡単になります。逆にカードがないと地元の銀行からの海外送金ですら苦労します。
海外出発前の役所手続きのまとめ
以上より海外出発前の役所手続きは以下のようにする方が多いです。
- 3か月までの海外転出
海外転出届は出さず、特に何もしないケースがほとんどです。 - 4~9か月までの海外転出
海外転出届は出しません。
国民年金は免除もしくは猶予を視野に入れつつ、基本的にはカラ期間にしておきます。
マイナンバーカードを申請しておきます。 - 10~11か月までの海外転出
海外転出届を出せる市区町村であれば念のために届出を出し、国民健康保険を失効させます。
国民年金は基本的にはカラ期間にしておきます。
お持ちでないならマイナンバーカードを申請しておきます。 - 12か月以上の海外転出
海外転出届を出せる市区町村であれば届出を出し、国民健康保険を失効させます。
国民年金は基本的にはカラ期間にしておきます。
年末年始のご出発をお考えの方は多少無理をしてでも年内に出発 ⇒ 翌年の住民税の免除を考えます。
その他、日本国内で不動産所得などがある場合は詳細を税務署に確認した上で、納税管理人を選任します。
お持ちでないならマイナンバーカードを申請しておきます。
大抵の市区町村では各種申請を渡航14日前から受け付けていますので出発の3週前には電話でお問い合わせ ⇒ スムースな手続きを目指しましょう。
また役所手続きに必要な書類は以下をご確認ください。
- 免許証など、身分証明書
- パスポート、ビザ
- 印鑑
- 年金手帳(基礎年金番号)
- 健康保険証
- 住民基本台帳カード
- マイナンバー個人番号カード
ちなみに健康保険証と住民基本台帳カードは原則として市区町村に返納することになりますので、念の為にコピーを取っておくと間違いがありません。